夫婦で暮らしてると、どーーーしても相手を許せないときって、ないでしょうか。
どーーーにも腹が立っちゃってしょーがない。
友達にLINEで、同僚にお昼休みに。
愚痴るしか仕方がない。
そんなとき。ありますよね。
経験。ありますよね。
今日はそんなあなたのお話。
おはなし
例えばあなたが世を捨てたとしましょう。(よくあることです)
そしたら当然、中国の山奥に住みますよね。(自然な流れです)
そこにあるのは、朝起きて、霧がかった湖の水面をしばし見つめて、静かにうなずく。
それだけの生活。
そんな生活が、かれこれもう20〜50年続いています。(うろ覚え)
とにかくあなたは翁(おきな)なのです。
そこにひとりの男が訪ねてきました。
見たところ、年の功20〜50代です。(老眼)
男の話によると、とにかく妻と仲が悪い。
夫婦仲は最悪。家庭内の空気は険悪。
「なんでこんなのと結婚してしまったのか」
「この結婚は人生で最大のミスだ」
「独身時代のあの日に戻りたい」
来る日も来る日も、男は後悔し続けた。
そしてその後悔が、さらに男から愛情を奪っていく。
ある日ささいなことがキッカケとなり、かつてない程の凄惨な口論になった。
そしてとうとう妻に心底腹を立てて、家を飛び出して来たのだという。
翁が差し出した水をぐいっと飲み干すと、男は鼻息荒く不満を吐き散らした。
「妻がすぐにガチギレしてきてマジうぜーんです!あいつだきゃあ許せねえ!!」
それを聞いたら、あなたはこう答えるでしょう。
「ほっほっほ。世の中とはそういうものじゃて^^」
翁は静かに、言葉少なく語った。
世の中とは思い通りにいかないこと。
夫婦とはぶつかってわかり合っていくこと。
誰しもくじけそうになりながら、何かを続けていること。
続けてきたから見えた世界があること。
こうべを垂れ、感謝の言葉を残して去って行く若者。
彼もいずれ気づくのであろう。
女心は秋の空。
台風もハリケーンもゲリラ豪雨もあるさ。
薮の中に消えゆく来訪者の姿を見送った翁は、ゆったりとした動きできびすを返すと、遠い東の空に目をやり思いを馳せた。
(わしも若いじぶんはあんな風だったんじゃろうか…)
若き日の悔恨の念が、ふいに脳裏をかすめる。
あの日自分が発した言葉は、彼女の心にどう刺さったのだろうか…
あの日下した決断は、はたして誰にとっても正解だったのだろうか…
あの日の彼女にとっても…
そして、今の自分にとっても…
悠久の時が止まる。
見慣れた湖の川面は、一枚の水墨画のように、波紋ひとつない。
そのとき、一陣の風が吹いた。
砂ぼこりに閉じた目を開け振り向くと、枯れ木にとまっていたのは一羽の鳳凰。
羽は燃える夕陽のような鮮やかな朱色。
長い尾の動きは「ディズニーが手がけたのかな?」ってレベルのなめらかさ。
悠然とした佇まいで、こちらを見つめている。
その眼はすべてを見透かすように真っ直ぐだ。
羽を広げて頭上を舞う鳳凰。
その羽から、尾から、無数の光の粒が生まれて、鳳凰のまわりを舞っている。
そして快晴の水面にきらめく光のような眩さが、翁の頭上から降り注いだ。
眩しさに細めた視界に、かざした手の甲が入ったその瞬間だった。
翁は心臓が激しく膨張するのを感じた。
眼前にある自分の手からはシワが消え、爪は光を受け艶を帯びていた。
急いで服をめくって腹を見る。
手のひら同様、こちらも肌に張りがある。
激しく打つ鼓動に急かされるように、慌てて住処である小屋に駆け込むと、鏡に張り付いたホコリを手で拭った。
若い。
顔も髪も唇も、すべてが若返っている。
まるで別人のようだが、違う。
これは、自分だ。
今自分が見ているのは、遠い日の自分だ。
懐かしいその容姿は、懐かしい記憶の引き金となった。
一瞬にして膨大な出来事・感情が、土石流のように脳に流れ込んでくる。
情動に耐えきれずに、翁は小屋の外に飛び出た。
そして、湖を見る。
心を落ち着かせるときはいつもそうしてきた。
視界は広く、鮮明だ。
水面に描かれたわずかな波紋も、遠くに霞む山も、そのまた奥の山までも、今はくっきりと見える。
自分の姿は若くなった。
記憶も若い頃に戻った。
鼓動の高ぶりはまだおさまらなかったが、元いた場所に戻ったことで、ふいに思い出したことがある。
鳳凰のことだ。
頭上を見上げても、木々の枝を見渡しても、鳳凰の姿はもうなかった。
今となっては鳳凰が本当にそこに存在していたかどうかも、翁には確信が持てなかった。
…翁?
翁なのか?
いやちがう。
今はもう翁はではない。
これからの人生、未来を創れる若者だ。
だったら、これまで歩んできた道は消えたのか?
いや、思い出も後悔も、すべて消えずにこの胸の中にある。
これまでの道の先を、この若い体で歩めるのだ。
男の体は震えた。
これは寒気でも恐怖でもない。
希望への武者震いだ。
私も、やり直せるのだろうか。
薮の中に消えていったあの男のように。
もう一度、愛を取り戻せるのだろうか。
あの日に追いつけるのだろうか。
今すぐに駆け出せば…!
翁ではなくなった男は、身支度もせず、着の身着のままで駆け出した。
鼓動が、衝動が、男の体を気持ちが向かう方へと突き動かしていた。
行く先はわからない。
でもひとつだけわかってることがある。
「同じ過ちは繰り返さない。どんな状況でも自分だけは愛を捨てない」
この決心は岩よりも固く、崩れないことだ。
男の体には、気づけば希望と愛が満ち溢れていた。
今ならなんでもできそうだ。
どんなに牙を剥く獣も抱きしめられそうだ。
どんなものだって、命の限り愛せそうだ。
それが、今のあなた。
まとめ
人生極めた老人になったつもりで状況を客観視しよう。
いつか許せるなら、今日も許せるさ。
おまけのひとこと
